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週末旅のススメ 日本全国厳選トリップ vol.1

vol.1 越前大野「おいしい水を“食べ”に行く」

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今回から新しく始まりました、JALグループ機内誌「SKYWARD」が贈る「週末旅のススメ 日本全国厳選トリップ」
さあ、日本各地を翼に乗って旅してみませんか?


市街のあちらこちらに地下水が湧き、日本でもっとも水道水がおいしい町といわれる福井県・大野市。
自然の地形が作り出す水循環は、人々の暮らしに多くの恵みをもたらしてきた。
豊かな食文化もその一つ。ここは、町全体がいわば「水を味わうレストラン」なのだ。
水の箱庭を覗きこむように、小さな町を歩いてみよう。

水道水が日本一おいしい町へ

天空の城として有名な越前大野城がある福井県大野市は「水道水が日本一おいしい町」。水道水といっても、浄水場から送られてくる水のことではない。今もなんと7割ほどの市民が、各戸で地下水を汲み上げて使っている。
なぜ、大野にはおいしい水が湧くのだろう? 町の地形にその答えがある。
大野の町は、1000km級の山々にぐるりと囲まれた盆地。さまざまな地形の条件が重なり、世界でも稀有な天然の循環システムをもつ名水地なのだという。その地形は、町の地下が大きなボウル型の水甕になっているイメージを描いてもらうとわかりやすい。

大野には「清水(しょうず)」と呼ばれる井戸がいくつもある。なかでも、湧水が暮らしと深く結びついていることを窺い知るには、名水百選に指定されている「御清水(おしょうず)」に立ち寄るといい。この井戸はお殿様の用水だったことから「殿様清水」とも呼ばれる。
柄杓ですくって飲んでみると、口あたりがまろやかで、体にすーっと沁みわたるよう。水の味ってこんなにも違うものなのかと驚くはずだ。
澄んだ水がこんこんと湧いている井戸から、掘り下げた水路に沿って段々と下方に水が流れる造りになっていて、中流は野菜の洗い場、下流が洗濯場。洗濯をする人こそいないが、部活帰りの学生たちが手足を冷やしたりしていた。一年を通して温度が一定で、夏は冷たく、冬は温かく感じられる。

おいしい水が醸す銘酒

400年以上も続く朝市が立つ、大野市のメインストリート、七間(しちけん)通り。毎朝、おばあちゃんたちが新鮮な野菜や山菜を並べて売っている。見たことのない山菜も調理法などを教えてもらったりと、そぞろ歩きが楽しい。
そんな七間通りでもひときわ目を引く店構えの「南部酒造場」を訪ねた。「花垣」の銘柄が有名なこの酒蔵では明治時代からずっと、地下水で酒を仕込んできた。蔵の前には、「七間清水」という清水がある。

「地酒の特徴は、水の違いによって表れてくるものです」と話すのは、代表取締役社長の南部隆保さん。大野の水は地層のミネラルを含んだ軟水で、米を60%以下まで磨いた繊細な味わいの吟醸酒などに適しているそう。
「酒造りの過程では微生物の働きが大切ですが、そこに水の成分も作用してくるのです。大野のおいしい水がなければ、私たちの酒はできません」
酒米は遠くから取り寄せることもできるが、仕込み水まで輸送してくることはできない。酒造りの命ともいえる水を守るため、南部酒造場では水源地での植樹にも取り組んでいるという。

おいしい水で淹れるコーヒー

東京から故郷へ戻って店を開いた、「モモンガコーヒー」店主の牧野俊博さんも、大野の水を愛してやまない一人。
「大野の水には甘みがあるので、それに合う豆選びや焙煎を心がけています。コーヒーって、実はほとんど水なんですよね。コーヒー豆を通過した水を飲んでいるわけです。だから、この水でしか出せないおいしさがあります」
雑味のない、するすると飲めるきれいな味のコーヒーはたしかな説得力のある一杯だった。牧野さんのように都市部で暮らした経験がある人は、他所に住んで初めて郷里の水のすばらしさに気づくこともあるそうだ。
「若いころは、大野は何もないところだと思っていたけれど、今は胸を張って魅力ある町だといえるようになりました」と牧野さん。

おいしい水が育む蕎麦

水をめぐるおいしい町歩きはまだまだ終わらない。
大野に来たら忘れてはいけないのが、この地方の定番、越前おろし蕎麦を食べること。辛味大根おろしとネギなどの薬味を盛った蕎麦に、つゆをかけて食べるというスタイル。別名、ぶっかけ。シンプルだからこそ、蕎麦や出汁の香り、旨みがしみじみと感じられて、毎日でも食べ飽きない(実際に、滞在中は毎日食べた)。つまりそれは、ごまかしが効かないということでもあるだろう。

「打つのも茹でるのも、蕎麦が育った畑と同じ水を使うから、うまくつながります」と教えてくれたのは、「福そば」店主の加藤省吾さん。
「福そば」では、大野産の在来種の蕎麦粉を使い、石臼で自家製粉している。艶があってみずみずしく、コシが強いのは十割蕎麦ならでは。蕎麦打ちや出汁に使う水はもちろん地下水だ。
「この水があればこそ、香りと粘りが強い在来種の蕎麦がよりおいしくなるんです」
知るほどに奥深い、水を嗜む大野グルメ。お取り寄せでは味わえないものをその土地で食べるのは、旅の醍醐味だろうと思う。

足をのばして古民家カフェへ

「カフェ&ゲストハウス ナマケモノ」は、築60年の古民家を改装した趣ある佇まい。前庭を横目に暖簾をくぐると、ゆったりとしたレトロな空間が迎えてくれる。ハンドドリップのコーヒーと、店主手作りのスイーツでほっとひと息。取材に来たのに、このまま座敷でごろんと昼寝でもしてしまいそうな心地よさだ。
「どうぞ、寛いでいってくださいね」とニコニコ顔のオーナー、二見祐次さんは、環境のよさと人に惹かれて2012年に移住してきた。自らも旅好きだという二見さんと話すのも、ここでの楽しみ。
「でも、僕はいつも店にいるわけじゃないんですよ。だってナマケモノだから(笑)」

文/黒澤彩
撮影/秋田大輔

大野市へのアクセス

札幌(新千歳)から東京(羽田)経由で小松空港へ、JALグループ便が毎日運航。小松空港から福井駅まで空港連絡バスで約55分。福井駅から越前大野駅まで電車やバスで約1時間。

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掲載情報は2019年7月1日時点のものです。

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