オーストラリア「クイーン・ビクトリア・マーケット」
バカンスのススメ 非日常の世界に遊ぶ vol.2
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オーストラリアのなかでも「美食の街」として知られるメルボルン。数多くのレストランがひしめき合い、独自のカフェ文化が花開いた街でもある。
その中心部から遠くないところにクイーン・ビクトリア・マーケットがある。メルボルンの食文化を凝縮したようなその市場には、食にこだわる地元の人びとが集う。

エドワーディアン・バロック様式のフリンダース・ストリート駅、高層ビル、街を走るトラムが違和感なく溶け合う。
撮影/安彦幸枝
活気あふれる広大なマーケット



クイーン・ビクトリア・マーケットはオーストラリア最大の市場。およそ7.5ヘクタールの広大な敷地に700以上もの店が並ぶ。
広いはずの通路は、忙しく行き交う人びとで混み合う。あちらでもこちらでも声が飛び、いかにも市場らしい活気にあふれている。
観光客がお土産を買うのにちょうどいい雑貨店もあるが、生活感をともなう賑わいがあるのは、やはり食材売り場。色鮮やかな果物が山のように盛られ、何種類も並ぶ葉物野菜は水をはじくような新鮮さだ。デリカテッセンのショーケースには、ところせましとチーズが並べられ、天井からはサラミやプロシュートがぶら下がる。目移りしてしまうほど豊富な品揃えだ。
地元の人びとの食料庫


ここはメルボルンの人びとの食料庫。毎週通って食料調達をする人も多いと言うのは、メルボルン在住16年のリチャードソン恵さんだ。
「本気で買い物をしたい地元の人は朝一番でマーケットへ行きます。人混みを避けるため出勤前に、朝6時の開店と同時に行く人もいるほどです」
リチャードソンさんの家庭でも「ちょっといいチーズが欲しいときには必ずクイーン・ビクトリア・マーケットへ行く」という。「チーズの種類と質は、スーパーマーケットとは比べものにならないので!」
こだわりの専門店

品数豊富な市場には専門店が揃っている。
生鮮野菜コーナーにはオーガニックの野菜や果物だけを扱う店がある。精肉店ばかりが20軒ほど並ぶコーナーには、オーガニック精肉店はもちろんのこと、フリーランジ(放し飼い)の鶏肉専門店やイタリア系の精肉店などが軒を連ねる。
「ここでは、それぞれが異なる専門分野を持っているのです」
そう言うのは、グラスフェッド肉の専門店「エイモット・クオリティ・ミーツ」のマイケル・エイモットさんだ。牧草で育てられた牛肉、ラム肉、豚肉だけを販売する。
歩き回りながら牧草を食べて育った牛の肉は、脂身が少なくヘルシーで、味わいがあるという。健康や食に対する意識が高いメルボルンの人びとに人気だとエイモットさんは言う。
「ハブ」としての市場


エイモットさんは、19世紀後半からクイーン・ビクトリア・マーケットで営業する精肉店の4代目。祖父が働いていた1958年から60年間、今でも毎週お肉を買いに来る女性客もいるという。
「この市場はメルボルンの人びとの人生の一部」だというエイモットさん。「ここは人が出会って、親しくなって、一緒にコーヒーを飲む場所でもあります。人が集まる『ハブ』なのです」
そう言われて市場を見渡すと、人びとがあちこちでおしゃべりに興じている。会話が弾む店員と常連客、井戸端会議に花が咲く女性たち、カフェでコーヒーを飲みながら話し込む老人たち。そういう人たちの声が、マーケット中に音楽のように響き渡っている。
移民がつくる食文化

どこへ旅しても、その土地の食文化を映し出す市場を訪ねるのは楽しい。
クイーン・ビクトリア・マーケットの場合はもう少しユニークだ。「これ、オーストラリアの食材?」と思わせるような、国際色豊かな食材が揃っているからだ。
ギリシャ系のデリカテッセンには、何種類ものオリーブやディップ、お米をブドウの葉で巻いたドルマデスなどが並べられている。ポーランド伝統のソーセージやサラミが山積みにされているのは、ポーランド系移民が始めたデリカテッセンだ。西アフリカのジャーキーや南アフリカ風ソーセージ、アフリカ料理のお惣菜を売る店もある。
こんな各国の食文化も、今では移民国家オーストラリアの食生活の一部。見たこともない食材に心踊らされながら市場をぶらぶらしていると、多くの移民を受け入れてきたメルボルンの懐の大きさを感じる。
地元の人びとと歩んだ140年


移民たちの食文化を受け入れながら、変遷する時代をメルボルンの人びとと共に歩んできた市場は、今年140周年を迎えた。1878年のマーケット誕生以前からも、そこには干し草や家畜の市場があったという。
「メルボルンの人びとはいつだって市場が大好きだった」と言うのは、クイーン・ビクトリア・マーケットのCEOスタン・リアコスさんだ。
観光客も増えたが、今でも訪れる人のほとんどは地元メルボルンの人びとだという。「市場は地元の人のものであることがとても大切です。地元の人が集まるところに、観光客も集まりますから」
いつまでも変わらない市場のために


長く地元に根付いてきた市場で、昨年から5カ年計画のリニューアルが始まっている。19世紀の建築をそのまま残しながらも、より機能的で、環境に配慮した市場に生まれ変わるという。
リアコスさんは長い歴史を誇る市場の将来をこう見ている。
「市場は改善されますが、歴史や遺産、市場の雰囲気が失われることはありません。市場をショッピング・センターにしたくはないのです。活き活きとした、素朴な生の市場であり続けて欲しいのです」
140年間、メルボルンの街とともに年を重ねてきた市場は、これからも人びとの生活のなかに生き続けるのだろう。
Information on Melbourne
メルボルンへのアクセス
札幌(新千歳)から東京(成田)で乗り継ぎメルボルン国際空港へ、JAL便が毎日運航。
Information about JAL
2017年9月より、成田―メルボルン線がJALボーイング787型機『JAL SKY SUITE 787』で毎日運航中!メルボルン・シドニーでのおトクなサービスなど、詳細は下記をご覧ください。