バカンスのススメ 非日常の世界に遊ぶ vol.14

誰もが知るあのメロディー……。アンデス民謡「コンドルは飛んでいく」。翼の両端を結ぶと3m近くになるこの鳥は、インカ帝国時代には聖なる生き物の一つとして崇められていた。そんなコンドルの一大棲息地が、ペルーを南北に縦断するアンデス山脈の一画に深く刻まれたコルカ渓谷だ。ここでは壮大な風景のなかを、歌詞のように悠然と舞う姿を見ることができる。

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標高2,335mから始まる冒険

コルカ渓谷の基点となるのが、ペルー南部、標高2,335ｍの高原に位置する世界遺産の街アレキパだ。首都リマに次ぐペルー第二の都市であるアレキパは街歩きも見逃せない。5,822ｍのミスティ山に見守られたこの街は、スペイン統治時代の壮麗なコロニアル建築が旅人を魅了してやまない。

特に中心部は、周辺で採れる白い火山岩で建てられた教会や邸宅が太陽の光を反射して眩しく輝いている。そんな白亜のアレキパの中心に佇む「聖カタリナ修道院」は、1970年まで修道女たちが生活していた場所。現在は博物館として一般公開されている。広大な敷地で増改築が繰り返され、修道院内はまるで一つの村のよう。目が覚めるような青色と紅色で塗られた壁が印象的だ。また標高のわりに温暖な気候を有するこの街は、多くの農作物を育み「美食の街」としても知られる。「ピカンテリア」と呼ばれる美味しい郷土料理のレストランがたくさんあるのも、旅人には嬉しい限りだ。

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標高4,900mに広がる高原を抜け、
世界一深い峡谷へ

アレキパから北西約160kmに位置するコルカ渓谷を目指して車を走らせる。車窓からは、アンデス高原に広がる広大な国立保護区で、絶滅が危惧されたビクーニャやアルパカが草を食んでいる姿、また6,000m級のミスティ山やチャチャニ山が広がる眼福な光景が続く。ここで標高は4,000mだ。さらにコルカ渓谷へ続く道はじわじわと高度を上げ、ついに標高4,900mに！峠の休息所で車を止めて外に出ると、空気が薄いことを否が応でも感じる。歩くのもやっとだ。アンデスの民が愛飲する、高山病の予防に効くというハーブがたっぷり入ったムニャ茶で一息入れる。峠を下ればコルカ渓谷はもうすぐだ。

アレキパを出発して約4時間。ようやくコルカ渓谷が眼下に広がった。村が点在する開けた渓谷の斜面には、見渡す限りの段々畑が続く。村の人々は、先祖代々の畑「アンデネス」と呼ばれる、プレ・インカ時代から続く段々になったテラスを維持し続けている。そんな美しいアンデスの原風景に人の叡智が加わった、唯一無二の絶景に魅せられない人はいないだろう。

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標高3,300mに築かれた
コンドルたちのハイダウェイ（隠れ家）

コルカ川によって削り取られた、高低差3,000mを超える深い渓谷を持つコルカ渓谷。なかでも「クルス・デル・コンドル」という呼ばれる展望ポイントでコンドルを見られる確率が高い。早朝すでに数羽のコンドルが大空を舞っている。大きく旋回しながら高度を徐々に上げたり、下げたり、時には大きな翼を広げて頭上を通り過ぎてゆく。その迫力たるや、神の使いとして崇められてきた「空の覇者」そのものだ。展望ポイント周辺には遊歩道も整備され、気持ちよくハイキングができる。しかし無理は禁物だ。標高3,000m以上にいることを忘れないように。

そんなコンドルを観察するには、上昇気流が発生する晴れた日の早朝がベストだと言われる。というのもコンドルは、体重が15kgを超える個体も少なくなく、実のところ、体が重すぎて上昇気流を使わないと飛べない鳥だからだ。勇姿とはまた違った情けない事実だが、4月から9月ぐらいの乾期の早朝がキーワードである。

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標高3,400mに佇むリトリート

コルカ渓谷に点在する村の一つ、ヤンケ村の外れに佇む「BELMOND LAS CASITAS（ベルモンド ラス・カシータス）」。アンデスの雪山を望む斜面を利用した広い敷地に20棟のバンガローが点在する。ペルー伝統のテキスタイルのインテリア、テラスと温泉プランジプール、プライベートガーデン付きの贅沢な空間。アンデスの山々に囲まれた絶景のなかで全身をリラックスさせたい。

敷地内にはファーム（自家農園）があり、レストランで提供する野菜やハーブを育てている。またコルカ渓谷を満喫するべく、多くのアクティビティーが用意されているのも特徴だ。その一つが、一日に数回ゲストも一緒にベビーアルパカにミルクをあげる体験。その可愛さといったら、見ているだけで幸せになれる。インディゴの夕暮れがゆっくりと谷を染めるテラスで、ペルー伝統のお酒ピスコのカクテルと共に過ごすひと時も最高だ。近郊の食材を使った美味しいペルー料理の数々も旅に彩りを添えてくれる。ここではシェフに教わるペルー料理のクッキングクラスも開催している。人気のペルービアン・レシピを習得してみるのも旅の思い出となることだろう。

文／鈴木博美
撮影／Ryoichi Sato

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