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週末旅のススメ 日本全国厳選トリップ vol.7

vol.7 福岡・筑豊「ことこと列車で行こう!」

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週末旅のススメ 日本全国厳選トリップ

「炭鉱」から「観光」へ、軸足を移した筑豊

北海道に夕張や芦別などの炭鉱群があったのと同様に、九州・福岡県の筑豊エリアも、日本を代表する炭鉱の密集地として隆盛を誇った。こういった地域では、採掘した石炭を運搬する「足」として、明治時代の前半から、いち早く鉄道網が整備された。その昔、筑豊の子どもたちは、トロッコに載せられた石炭が線路脇に数個こぼれ落ちていると、拾って持ち帰り、風呂を沸かす際に用いたという。「木材だけをくべる場合と熱のチカラが全然違うような気がしたけんね」。あるご年配の方から、そんなお話しもうかがった。

そこから時代は移り行き、動力源は石炭から石油へと変わっていった。旧藩名である筑前と豊前の両地域を合わせて「石炭産業の主要エリア」として命名された「筑豊」は、昭和の半ばを過ぎたころから徐々に人口も減り、「かつて栄えた地域」と見なされていった。けれども近年は、未来へ向けた産業創出に邁進している。「炭鉱がダメでも観光があるじゃないか」と立ち上がったその代表格が「平成筑豊鉄道」だ。

線路と歴史は、どこまでも続く

平成筑豊鉄道は、福岡県と沿線自治体が出資する第三セクター方式の鉄道会社。設立は1989年の4月。元号が昭和から平成となった元年にあたる。
2019年の3月からは「直方(のおがた)→行橋(ゆくはし)」間で、2両連結の豪華観光列車「ことこと列車」の運行を開始。この年の5月1日に元号が「令和」と改められた。歴史を一冊の書籍に例えるならば、西暦が示す数字は「ページ」を示し、元号は「章」のような意味を持つともいえる。歴史という物語は、幾多の苦難に見舞われもするが、常に希望に満ちた、新たな展開を切り拓いていく人々によって紡がれていく。

観光列車は「動くレストラン」でもある

「ことこと列車」の運行は基本的に土日祝のみで、1日1本。某月某日、筆者は実際に乗車した。乗車駅は直方。駅前には、郷土が生んだ名大関「魁皇」の像が立っている。
発車時刻は午前11時32分。ホームに停車している赤を基調とした「ことこと列車」のデザインは、「ななつ星in九州」や「或る列車」など、一連の人気観光列車も手がけている水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)氏によるもの。ここ直方駅から田川伊田駅までを一往復した後に、再び発車して一路、行橋へ向かう。トータル3時間20分ほどのショートトリップ。乗る前からワクワクする。景色もさぞや美しいだろう。そして何より、車内で供される料理が楽しみだ。

発車の準備が整い、乗客は指定券に示された座席に陣取る。ドイツ製ステンドグラスの天井や、2万個以上ものパーツを組み合わせた床、2両の車両ごとに異なるシートの色やテーブルの配置の違いなど、細部にもデザイナーのこだわりが見て取れる。車内をつぶさに見て回るのは、食事が一段落した後の「目で味わうデザート」用に取っておこう。

列車が出発、筑豊の名山と謳われる福智山が車窓の先にそびえているのが見える。青空と緑の山のエッジは、くっきりとし、沿道からこの列車の走りゆく姿を見ている人たちが手を振っている。緑の景色の中をゆっくりと走り行くこの列車の赤いボディは、さぞかし鮮やかに映っているだろう。

地元を愛する心が、新しい観光を生み出す

料理は、筑豊の9つの市町村の名産食材を使った、9種類の料理が詰まったオードブルから始まる。香春町(かわらまち)の玉ねぎと海老芋のキッシュ、サーモンと田川産春菊のタルタル、直方の紫キャベツを小竹町のブルーベリーでマリネしたもの、アンコウの肝を糸田町の白菜で巻いたもの……、乗車する季節によって料理の内容に微調整はなされるだろうが、「筑豊の9つの市町村の名産食材」を使う点は揺るがない。一皿に乗った「オール筑豊」の多彩な個性。
料理を担当しているのは「アジアのベストレストラン50」にも選ばれ、「ミシュラン」の一つ星も獲得した福岡市西中洲のレストラン「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」。福山剛シェフの地元福岡県に寄せる愛情と熱意が、優しく伝わってくる。

料理の皿は車内スタッフから、絶妙なタイミングで順々に運ばれてくる。田川産のかぶのブランマンジェ、行橋産の「ゆく鴨米」を使ったイカ墨リゾットにソテーしたアワビを添えた、色も黒々、「石炭リゾット」と命名された一品が続く。メインは、田川産のレンコン・糸田町産の山芋・小竹町産の長ネギを添えた「和牛ほほ肉の煮込み」。デザートは地元酒蔵の銘酒を使ったゼリーなど。

食材や車窓風景に関する折々のガイドアナウンスにも和まされ、「ことこと列車」は決して急ぐことなく、ことことと走り行く。筑豊は観光という新たな鉱脈を、一歩一歩、着実に掘り進んでいる。

※新型コロナウイルスの影響で、「ことこと列車」は6月末まで運休し、7月より運行再開予定です。最新の運行スケジュールはご予約の際にご確認ください。

文/品川雅彦
撮影/名取和久

Information about Chikuho

福岡・筑豊へのアクセス
札幌(新千歳)から福岡空港へ、JAL便が毎日運航。直方市まで福岡空港から車で約1時間、電車で約1時間30分。
※最新の運航状況はJAL Webサイトをご確認ください。
https://www.jal.co.jp/

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掲載情報は2020年6月15日時点のものです。

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