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週末旅のススメ 日本全国厳選トリップ vol.4

vol.4 大阪「変わる味、変わらない味。愛され続ける大阪うどん文化」

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週末旅のススメ 日本全国厳選トリップ

100年以上続く、日本でもっとも有名なうどん

きつねうどん――。大阪で生まれ、今や“日本一ポピュラーなうどん”と言っても過言ではないだろう。その元祖は戦後、大阪商業の中心の一つで繊維街として栄えた丼池筋(どぶいけすじ)にある「うさみ亭マツバヤ」といわれている。1893(明治26)年創業、当時の香りを残す店内で、きつねうどんの始まりについて三代目主人・宇佐美芳宏氏が「これは親父(二代目・辰一氏)から聞いた話ですが」と前置きして、教えてくれた。「初代のおじいさん(要太郎氏)が奉公していた鮨屋のいなりずしをヒントに、試しにうどんと油揚げを一緒に出したのが最初だと聞いています。それがどんどん人気になり、“こんこんさん、ちょうだい”とあだ名で注文するお客さんもいたそうです。今でもこれだけ愛されていると知れば、先代も天国で喜んでると思いますわ」。

油揚げは京都から取り寄せ、利尻昆布や屋久島の本枯節、サバ節などの二番だしで3日かけてじっくり味を入れていく。ふっくらと炊き上がったお揚げにかぶりついた瞬間、ジョワッとコクと甘じょっぱさが口中にあふれ出し、しばらく言葉が出なくなるだろう。

朝うどん、大阪讃岐……多様なうどん文化

大阪のうどんには“庶民の朝食”としての顔もある。なんば南海通商店街の入り口に建つ「なんばうどん」の朝は早い。朝7時、表に暖簾がかかるや気づけばあっという間に満席。チャッチャッと湯切りする音、ズズズ~ッと麺をすする音、「おはようさん!」と威勢のいい声……昭和、平成、令和と時代が移り変わろうとも、ここには変わらない朝の活気がある。一方で、変革もあった。

「き田たけうどん」の店主・木田武史氏やその門下の職人らが確立させたのは、“大阪讃岐”と呼ばれる新ジャンルである。だしが引き立つようにと柔らかいうどんを出す店が主流だった大阪で、讃岐のエッセンスを取り入れたうどんは徐々に人気を獲得。大阪讃岐の誕生は、関西圏のうどん界に近年もっとも強いインパクトを与えた新風といえる。

家族で囲むハレの日のうどん

大阪のうどん文化を遡っていくと、90年近く姿を変えずにいる伝統的なうどん料理にたどりつくことができる。大阪のみならず関西や関東、中部にも支店を持つ「美々卯」の「うどんすき」である。だしをたっぷりと注いだ鍋で色とりどりの具材とうどんを煮込んで食べるこの料理。鍋の一つと思われがちだが、うどんが〆ではなく主役である点が他と異なる。商標登録もされるこの料理で名を馳せる同店。実はその始まりが蕎麦屋だったことは、大阪人でもあまり知らない。1925(大正14)年、200年続いた料亭旅館「耳卯楼」(現在の美々卯堺店)の末っ子・薩摩平太郎氏が戎橋(えびすばし)に大衆蕎麦屋「美々卯」を開いたのが始まりだ。その後、人気店となった「美々卯」はミナミを中心にのれん分けで店舗を増やしていく。

戦前からの同店の歩みを綴った書籍「うどんすき物語」をめくると、1933(昭和8)年ごろ、平太郎氏が妻・きくとの夕餉で牛すきの残り汁に何気なくうどんを煮込んで食べたところあまりの旨さに感動し、「なんとかしてこれを料理として完成させたい」と考えたのが始まりと、その誕生秘話を知ることができる。

だがその後、戦争が起こり、十分な小麦粉や食材を集められなくなる。そのうえ、戎橋にあった本店も戦災で失い、復員直前に平太郎氏が亡くなってしまう。苦難が続くなか、当時21歳の2代目・卯一氏は母(きく)と二人三脚で北店(現在の本店)の復旧と、うどんすきの復活に力を注いだという。ようやく満足できるうどんすきを出せるようになったのは1950(昭和25)年ごろ。さまざまな具材とうどんをだしで煮込む現在のスタイルだった。

職人たちの仕込みは朝6時に始まる。2時間かけて鰹節を削り、15種、季節によってはさらに増える具材をあらかじめだしで下茹でしたり、あく抜きしたりとそれぞれに合った仕事を施すことで、一つひとつのうま味を最大限に引き出していく。だしは利尻昆布やメジカ節を中心にソウダ節や本節などから引き、淡口醤油やみりんで味の輪郭を調える。これらの手法が100年前からほぼ変わっていないというから驚かずにいられない。「食材や仕込み方を少し変えるだけで、どうも味がまとまらんのですわ。きっと初代がお客さまにお出ししたときには足し引きする必要がない、完成形やったんかなと思います」と本店店長を務める平山立志氏。

伝統芸術として守られてきたうどんすき。黄金色のだしに海老や蛤など色彩もよい具材とうどんが浮かぶさまに、ハレの日にうどんすきを囲む家族の姿が脳裏に浮かぶ。世代を超え、大阪の人々に愛されるごちそうとしてこれからもあり続けるはずだ。

文/井上こん
撮影/鮫島亜希子

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掲載情報は2019年12月16日時点のものです。

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